筑波大学Vision 2030策定にあたって

たゆまぬ挑戦

 2023年、筑波大学は開学50周年(創基151年)を迎えます。わが国が設置した最初の高等教育機関として1872年に産声をあげた師範学校をそのルーツとしてもつ本学は、1973年、あらゆる意味において「開かれた大学」という基本的性格を建学の理念に掲げて、筑波研究学園都市に誕生しました。当時の大学は、学問分野の深化・専門化の進展に伴って、教育・研究領域の融合や流動性が失われ、社会からかけ離れた存在と見られがちでした。この現実が、本学の基本的性格を決定づけました。社会に向けた筑波大学からの回答のひとつが、他に類をみない学問分野を集め、教育組織と教員組織を分離した柔軟な教学システムや組織的な分野横断型の研究の推進といった先導的に導入した新しい仕組みです。本学は、旧来の観念に捉われることなく、実験的取組に果敢に挑む「新構想大学」として、本学のあるべき姿、すなわち、他の総合大学の構成に加えて、体育、芸術をも含み、それらの学問分野の学際的な協働のうえに新たな学問分野を創成する「真の総合大学」[1]を追い求めてきました。変動する現代社会への不断かつ柔軟な対応が求められるがゆえに、いわゆる改革疲れや閉塞感を抱くこともありました。しかしながら、建学の理念にある本学の目的をより高い次元で達成するためには、歩みを止めるわけにはいかないのです。

大学への期待

 わが国は、少子高齢化や地域の過疎化といった国際社会がこれから直面する課題にいち早く向き合い、その解決に注目が集まる、いわゆる課題先進国に位置付けられます。世界に目を転じれば、貧困、飢餓をはじめとする世界規模の課題が山積しています。大学は、教育を通して社会に貢献する人材を育成しています。同時に、教育は、「新しい知」という価値を生む研究に支えられています。人類がこれまで蓄積してきた「知識」とそれを基盤とした「新しい知」は、こうした課題への先例のない解決策をもたらします。大学はそのような重要な役割を担っています。
 ひとつの課題の解決は、それを内包する、より複雑な課題を浮き彫りにします。大学が社会変革に繋がる新しい価値を創造し続けるには、教育力と研究力の飛躍的な向上が必要であることは論を俟ちません。そのため、教育や研究への投資の拡大を可能とする財政基盤の強化とその自立化が必要です。大学と社会のエンゲージメントを強化するために、世界のトップレベルの大学がそうであるように、大学が目指す将来像とその実現によってもたらされる未来、すなわち、われわれが考えるビジョンを、投資家を含めたすべてのステークホルダーに提示し、価値観を共有する必要があります。言うまでもなく、ビジョンは大学や構成員の行動や判断の指針となり、結束力の強化と愛着の涵養に繋がります。

2030年に向けて

 COVID-19[2]の拡大が始まった2020年、ビジョン策定の議論が熱をおびました。そのとき、その後の社会のドラスティックな変容を予測することは困難でした。本学は、IMAGINE THE FUTURE.というスローガンのもと、未来社会の姿が見えない時代であるからこそ、あるべき未来を構想し、さらなる改革を加速させるべきであると考えました。加えて、第4期中期目標期間における指定国立大学法人制度への申請は、建学時に世界有数の大学をベンチマークしたこと[3]をわれわれに再認識させるとともに、本学の将来像を熟考する契機となりました。
 「筑波大学Vision 2030」は、そのような背景のもとで策定されました。遠い未来ではない2030年をターゲットとすることで、おとぎ話としてではなく、本学が創出する価値をより具体的にイメージできるのではないかと考えました。教職員による熱い議論を経て、筑波大学に対する愛着や思いが盛り込まれた「筑波大学Vision 2030」は、本学が一丸となって目指す大学の姿とその実現に向けた基本的な方針をまとめたものとなりました。ビジョンの実現に向けた強い意思をご理解いただければと思います。
 COVID-19という人類が直面する課題の解決に注力している間にも、東欧の政情の不安定化をはじめとする新たな世界規模の課題が生じています。本学は、このような課題の解決にも果敢に挑戦していきます。今後とも、一層のご支援とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

2022年4月1日
国立大学法人筑波大学長
永田 恭介


謝辞

筑波大学Vision 2030の策定にご協力いただいたすべての教職員に対して感謝申し上げます。2018年より、大学経営改革室のメンバーには、さまざまなアイデアをいただきました。Vision 2030のたたき台は、これらのアイデアをもとに作成しました。また、4回にわたる筑波大学Visionシンポジウムに参加していただいた教職員の皆様には、貴重なご意見、コメントをたくさんいただきました。筑波大学Vision 2030には、皆様の筑波大学に対する愛着や思いを込めさせていただきました。
最後に、企画評価室のメンバーには、筑波大学Vision 2030策定の初期段階から完成まで、知恵袋としてまた強力な推進力としてすべての面でご協力いただきました。
あらためて、感謝申し上げます。


[1] 単に様々な分野が集まっている、あるいは学問間が協力して共同研究・教育を遂行するだけではなく、学際的な協働の上に新たな学問分野を創成する総合大学(「国立大学法人筑波大学第四期中期目標期間における指定国立大学法人の指定に関する構想調書」を加筆)

[2] 新型コロナウイルス感染症

[3] 1964年に新設された米国カリフォルニア大学サンディエゴ校における「クラスター・カレッジ制度」は本学の教育システムの構築に最も影響を与えたものとの記録があります。この制度は、カレッジ制度の長所である人間的な接触と交流を密にした教育を実施するとともに従来の学部・学科間の障壁を排除することによって、内外ともに開かれた大学を目指すもので、いわば大規模な総合大学と小規模の大学の利点を併せもつような新しい教育研究組織(「筑波大学十年その成果と課題」より修正)と報告されています。

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