Visionインタビュー:教育推進部での仕事と職員のあるべき姿 土居新治さん②

大学経営推進局企画係長の土居新治さんが6年間在籍していたのは本部の教育推進部でした。大学の外からは少しイメージのつきにくいこの教育推進部ですが、大学職員の醍醐味を感じるような仕事だったようです。

――教育推進部とはどういう部署で、どういう人と仕事をしていたのですか?

教育推進部は、他大学では教務部や学務部などに当たります。「教育」という言葉からは学生と接する機会が多いように思われるかもしれませんが、直接の学生対応は各エリアの支援室(学部・学科の事務に相当)が担当していますので、教育推進部で学生と接する機会は多くありません。他方で「教育」を扱うので、教員と接する機会は他の部署と比べても非常に多くなります。具体的には、教育担当副学長の下、学群長やカリキュラム委員など教育組織の運営を担う先生方と関わりながら、現場の教育が円滑に行えるようにオペレーションをしたり、教育関係の新しい施策の企画や調整を行ったりしていました。

――副学長や教育組織の長と関わるとなると、上司がたくさんいるみたいで混乱したりしませんか?

教育推進部での最初の2年間はスーパーグローバル大学事業推進室に配置されていたので直属の上司は同室の担当課長で、その後教育機構支援課に異動した後の4年間は同課の課長でした。教育推進部全体で見ると、教育担当副学長がトップで、部長、課長、主幹、係長、係員というラインになっており、それ以外にもいろいろな先生方と関わりますが、事務部門の指揮命令系統としては1本になっています。

――ある意味で、仕事の中でいろいろな教員とも触れ合えることで飽きないということでしょうか。

教育推進部と他の事務部署の違いとして、指揮命令系統の複雑な教員主体の組織とやりとりしないといけません。上からの指示が来ても、教育組織との調整が必要で指示通りに実行することが難しい場面もあります。それは教育推進部の後に別の部署に異動した際に、だいぶ違うなぁと思ったところでもあります。教育推進部での教員とのやりとりの多さは際立っていました。

――教育推進部で関わっていて印象的と思った教員にはどういう人がいましたか?

個人名は伏せますが、教育推進部でよく一緒に仕事をしていたある先生は筑波大学が大好きで、教育をよくしたいと思っているし、職員の話もよく聞いてくれます。ほんの一例ですが、教育推進部の周りにはそのような先生方が多くいます。教育推進部では内容的に教員に引っ張っていってもらわないといけない業務も多いのですが、そのような役割を担う先生が教育推進部の職員を信頼して一緒にいろいろな業務に当たってくれるというのがありがたかったです。

――他にはどういう人が教育推進部の仕事で印象的だったのでしょうか?

やる気があって、業務について勉強をしていて、実際に自分で行動するというのを体現している人ですね。教員だけでなく、大学採用の職員や文部科学省から出向で来ている方にもいました。よりよい仕事をするためにはまずはやる気が必要ですし、業務についての勉強も不可欠ですし、自分で行動する人ほど周囲からの信頼も厚くなるように思います。

――やる気があって、勉強していて、自分で行動する人が一定数いるということでしょうか。

筑波大学にはちらほらいますね。仕事でまわりによい影響を与えてくれる人がいるというのはよいことだと思います。

――教育推進部では学内だけでなく文部科学省とのやりとりも多いと思いますが、どのような仕事だったのでしょうか?

調査や照会などの依頼はメールでどんどん来て、淡々と書類で返していきます。大変なのは、実際に文科省に行って、担当官と「こういうことをやりたいのだけど、通してくれませんか」などと相談に行くような場面です。実際の説明は案件に応じて然るべき立場の方が行いますので、私自身は説明資料や記録の作成、相談結果を踏まえた学内での対応などが主な役割でしたが、大学院の組織再編のことでは毎月1回は行っていました。相談の度に色々な指摘をいただくので、大学に帰ってそれに対応できるように調整したり、本学として譲れない点がある時は再度説明を尽くせるよう頑張ったりするのは、教育推進部ならではの仕事と言えると思います。

――なかなか大変そうな仕事ですが、他に外からイメージしにくい仕事の魅力や意義としては何があるでしょうか?

大学教員はそれぞれの分野の専門家なので、必ずしも教育の制度や施策に明るいわけではありません。また、教員はそれぞれの所属部局にいるため、大学全体の状況はなかなか見渡しにくいと思います。さらに他大学出身の教員も多くいます。新しい施策を実施するときには、色々な組織や分野の状況を見渡しながら、筑波大学がこれまで大事にしてきた教育の理念や歴史を継承した上で制度化していかなければなりませんから、そのような観点からの検討については職員が支援をしなくてはなりません。そういうところで職員の役割が発揮されます。担当している組織の教育をよりよくするために新しい試みをしたいが制度的なことがわからないという先生方をサポートしたり、大学全体の施策や状況を過去の経緯を含めて説明したりしながら支えていくわけです。

――職員でないとできない仕事があるということですね。

そうですね。スペインの哲学者であるオルテガ・イ・ガセットは、1930年に執筆した『大衆の反逆』において、科学者のことを「野蛮人」であると述べています。専門分野を極めるために専門外のことに無知になってしまう、にもかかわらず専門外のことについて無知であることを認めたくなくなってしまう、という当時の科学者の気質を評したものです。大学教員は当然その人の専門分野においてはプロですが、大学の経営や教育制度などを含め、分野外のことについては必ずしもそうではありません。職員との接点が少ないために、自分の知らない知識を職員が持っているということを知らない人もいるように感じます。でも、一緒に仕事をするうちにそうした先生方からも信頼されるようになり、協働してよい仕事ができるようになります。

――協働してよい仕事をできる教員と一緒にやっていくのも、今後の職員に求められることなのかもしれませんね。他に、今後の職員に求められることは何でしょうか?

あくまで個人的な考えにはなりますが、制度、政策や大学の歴史、大学の全体的な状況を見渡すといったことは、業務に関連した勉強を続けていくことで職員全員が共通して身につけていくべきものだと思います。そこから先、さらに専門性を高めてプロフェッショナルとして信頼される職員になるには、他の人とは違うプラスアルファがないといけないと考えています。私の場合、まだまだ未熟ではありますが、海外研修の経験などを通じて海外の大学事情に関する知識や情報収集のスキルを身につけたことと、働きながら大学院(他大学の修士課程)に通ってアカデミックな訓練を受けたことが活きています。つまり、国際的あるいは学問的な知識・経験がプラスアルファになっていると感じています。いろいろな才能を持った職員が大学に集まってそれぞれの特殊技能を発揮できるようになるとよいなと思っていて、分かりやすい例で言うと、デザインが上手とか、ITスキルが高いといったこともプラスアルファになると思います。今後、そうした様々な特殊技能を持った職員が入職してくれる、あるいは、入職後にそうした特殊技能を身につける職員が増えていくとよいのではないかなと思います。

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