Visionインタビュー:大学を本当によくするには? 土居新治さん⑤

大学職員として大学をよくするにはどうすればよいのか。また、たびたび出てくるジェネラリストかスペシャリストかという問いは今後の大学ではどうなるのか。海外での経験も含めて、土居さんにお聞きしました。

――この苦難の状況において、大学をよくするにはどうすればよいとお考えでしょうか?

あくまで個人的な考えになりますが、支援室を強化することが重要になるのではないかと考えています。教員が雑務に追われて忙しいと言ったときに、誰がその仕事を代わりにできるかと言ったら、現場に近いところにいる職員しかいないと考えるからです。現状ではそれを実現するための十分な数の職員がいるわけではないので、今の体制のままではもちろん難しいと思いますが、もし仮に潤沢な財源と人員を確保できるならば支援室の体制を増強し、教員が研究や教育に専念できる環境を作っていくのが理想だと思います。本学に限らず日本の大学全体が目指している方向性ではないでしょうか。

――海外の大学と比べても、日本の大学は職員数が少なく教員に事務仕事の負担がのしかかっていることが指摘されていますよね。ただ、大学が世界に伍していくためエリア支援室を強化していきたいとなると、支援室の職員がつらくなったりしないでしょうか?

どこかに無理がかかる仕組みは持続的でないので、職員を増やして体制を整えてということが必要不可欠だと思います。ただ、そのためにはやはり財源をどうにかしないといけないということが最初に来てしまうようにも思います。

――法人職員採用試験を受けて入職する人は、ジェネラリストとしてエリア支援室を含めた異動をしていきますが、職員にとってジョブローテーションにはどのような意味があるのでしょうか?

ジョブローテーションに対しては肯定的な意見もあれば否定的な意見もあります。ただ、いま大学で活躍している職員を見たときにその人たちがどう育ったかと考えると、人事異動というのは重要な仕組みだと思います。必ずしもスペシャリストだけをどんどん大学に入れるのが正解というわけではなくて、ジェネラリストが現に活躍しているわけですから、そういう人を増やす道も当然あるのではないでしょうか。ジェネラリストかスペシャリストかを二分法で考える必要はないと思います。

――それは私も全く同感です。

優秀なジェネラリストを育成するジョブローテーションは残しつつも、その一方でスペシャリストが求められている部署についてはポジションを特定してスペシャリストを増やしていくのが大事だと思います。ただ、スペシャリストを増やしていくと人件費が増えていきますので、悩ましいところですね。

――でも、強いジェネラリスト、例えば一昔前の大学職員が1つ持っていた専門性を複数持っているようなのを求めると、その人たちの給与も上がることになりますよね。

それはそうかもしれませんが、スペシャリストだけで運営されるアメリカの事例を考えるとより分かりやすいと思います。日本の大学とアメリカの大学を比べた場合、アメリカの大学は新しい業務ができるとその業務に精通したスペシャリストを採用することが多いです。それを繰り返していった結果人件費が膨張し、教員よりも職員の方がどんどん増えていきました。その結果起きたのが年間数百万円にもなるような授業料の高騰です。私が海外研修に参加した際、アメリカの大学の留学オフィスに受け入れていただいたのですが、学生が留学する際のリスク管理を行う必要性が出てきていました。日本だったら既存の職員に追加でお願いするでしょうけど、研修先のアメリカの大学では空軍で働いていた経験があるようなリスク管理のスペシャリストを新たに採用していました。こんなことを繰り返しているとスタッフはどんどん増えていき、人件費がかさんで授業料など他のところにしわ寄せが行くことは想像に難くありません。ジェネラリストで対応できるところはジェネラリストで対応していった方がよいと思います。

――細分化・サイロ化しないというか、横串を通せるところが「強いジェネラリスト」のメリットかなと思いますが、そうすると今後の大学ではジェネラリストの水準向上を図る必要がありそうですね。

そうですね。特に、就職後も勉強し続けている人とそうでない人とでは年齢が上がるにつれて大きな差が生まれてしまうのではないかと思いますので、いかに勉強へのモチベーションを高めるかというのは重要な視点だと思います。

――就職してから勉強する人としない人というのは、どこで分かれるのでしょうか?

それぞれに色々な状況があると思うので一概には言えませんが、何かきっかけがあってやる気が出る人と、そういうきっかけがない人とで分かれるのかもしれません。

――そのやる気を出すきっかけは、例えばどんなのがあるでしょうか?

これ、というのはあまりピンとは来ませんが、一つは周りから褒められたり期待されたりすることでしょうね。それで一生懸命頑張っていって、何か小さいことでも成功体験を得て、それが連鎖していく。もう一つは先ほど申し上げたような、強烈な人に出会って感化されることでしょうか。

――前者の方は下手をするといわゆる「ブラック企業」的なところもありそうですね(苦笑)。それに対して、強烈な人、熱意のある人、大きな夢を持っている人がロールモデルとしていて自分もそうなりたいとか、その人の経験を聞いて自分もなれそうと希望を持ったりする、その方向性の方がいいのかなと思っています。そんな強烈な人は筑波大学ではいますか?

普段働いていて「この人すごいな」と思う人は時々いますね。

――そういう人に会うかどうか、仕事で一緒になるかどうかは、頑張りたいという内発的な動機ができるかと関係があるということなのでしょう。

はい、そう思います。話は戻りますが、大学院時代にお世話になった先生の研究に参加させていただいたことがあって、ここ20年程度の間で大学の国際部の組織や業務がどう変わったかを他大学の職員にインタビューしたことがあります。そのときもジェネラリスト・スペシャリスト問題というのが話題に上がりました。大学の国際部は事務組織の中でもここ20年の間にスペシャリストが増えてきている部門の一つですが、インタビューをすると、生え抜きのジェネラリストの職員よりもスペシャリストとして入職される方の方が英語力などのスキル面では能力が高い一方、大学の中のいろいろな部署と連携してとか、大学の規則に従って仕事を進めるといったところはジェネラリストの方が得意なので、ジェネラリストとスペシャリストをセットで配置するのがよいという話がありました。

――教員と職員の間の溝も大学では問題と言われますが、同じ職員でもジェネラリストとスペシャリストをどううまくつなげることができるか、というのは重要ですね。今後、どうやって両者の特性をうまく組み合わせて大学の業務を進めていけばよいのか、お考えはありますか?

なかなか難しいですが、お互いの長所と短所を認めて協働することが必要だと思います。また、現状では多くの場合はジェネラリストの側が管理職になっているわけなので、そちらが歩み寄らないとうまくいかないのではないでしょうか。

――まさに大学の運営や経営という問題になってきました。このテーマは、大学経営推進局のウェブサイトとして引き続き考えていきたいですね。

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