ジェネラリストとしての大学職員が新人の時にできることは何なのでしょうか?新人というと下積みのほかに特にできることはないと思われるかもしれませんが、そうでもないようです。前のインタビューに引き続き、西村さんから若手ならではのお話を聞きました。
――大学職員がやってみたいと思うことが素直にできるようにするには、今の仕事のやり方では時間にも労力にも余裕がなさそうです。

業務のスクラップアンドビルドは必要でしょうね。デジタルトランスフォーメーション(DX)の進展など現状が過渡期にあるという事情はありますが、それでどれだけ業務量を減らせるかですよね。
――DXが叫ばれながらも実際にはうまく進まないところがあるように感じます。業務のやり方を大きく変えてしまうと現場が対応できないというのもあるでしょうから。でも、現場から出てくる小さな改善というのもあります。例えば私が担当している教育組織の若い事務職員は、これまで多くの教員に紙の書類を回したり電子メールに添付ファイルでやりとりしていたりしていた業務を、オンラインのスプレッドシートで共同編集する形にしました。このように書類やメールの流量、ファイルの数を減らすところから始めるのが一つのやり方と私は感じています。
実務担当者でないとそういう勘所はわからないものだと思います。業務の体系から変えるとなると上からアプローチしないといけないでしょうが、現状の業務の中でもできることはあると思っていて、自分の担当業務の中で改善すべきところを一つ一つ見つけていくボトムアップが、地道ですけど大事ではないでしょうか。人事課にいた時の最初の1年は仕事を覚えるだけで大変だったのですけど、上司から、新しく仕事を覚え始めた時が一番その仕事の違和感に気づきやすいから、そこで気づいた「?」を大事にして改善策をメモするなどして蓄積しないと、慣れたときには気づかなくなってしまう、と言われたのが印象に残っています。それからは、意識的に時間を見つけて気になった点をメモに残すようにしました。人事課で社会保険料の算定を担当していたときに、膨大なデータを手作業で整理していたのをマクロでできるようにし、作業時間を大幅に短縮できたときは、達成感がありましたね。
――ひょっとすると、ジョブローテーションする意味や意義というのは、その「違和感」に気づいて業務改善をするきっかけを作ることにあるのかもしれないですね。そうやって非効率やムダを見つけて改善のタネにしないと、いい仕事ができる組織にはなっていかないわけですから。
そういう意味では、いろいろな人が部署に入れ替わりで入って経験するのは、大学の業務そのものをブラッシュアップするためにも大事かもしれないと私も思います。
――ジョブローテーションが慣習で行われるのでなく業務のブラッシュアップの意味も持って行われ、スタッフが一定数の職域を経験して大学の業務の見渡しができるようになって、そこから大学をよい方向に持っていくことが今後大事になるのでしょうね。
職務を中心に考えたときに、その発想はよいと思います。課題になるとすれば、ジェネラリストというあり方が、働くそれぞれの人にとってどのような意味を持つかです。自身の専門性を一本極めたいという人もいるでしょうし、そういうポストもいくつか存在します。ただ、大半がさまざまな業務を広く浅く経験していくキャリアになるので、大学全体をみんなで良くしていく、という意識になるのでしょう。「広く浅く」といっても、いろんなことを中途半端に知っているというのではなくて、これまでの経験を消化して自分の中に落とし込み、改善につなげられるようにすることが大事だと思います。
――今の大学の違和感に気づいて大学をよくできるのは、これから大学に入職する人たちだと私は思っています。
いくつかの部署を見渡してみると、「これ、若手でも担わせてもらえるんだ」と若手の力を発揮できる仕事もあるように思います。そこを前向きに「自分はここをこういうふうに変えていきたい」と、強い意志を持った人が臆することなく取り組めるとよいのではないでしょうか。それに加えて、上司が若手に「やっていいよ」と寛容である空気感も大事でしょうね。
――そういう「やっていいよ」という空気感のある上司は、西村さんから見てどういう人になるのでしょうか?
今の部署の次長や課長がまさにそうです。開学50周年記念行事の関係だと「こういうことをやってみたい」ということが言いやすく、自分の感性や意向を反映してもらえるところがあります。それを「いいね、やってみよう」と言ってもらえる環境があることはとてもうれしいです。例えば、卒業生へのインタビュー企画にはいろいろな人が関わっていますが、そこで自分の考えを述べる機会があります。また、広報局員として、リクルーティングにつながる広報のあり方や、デザインツールの使い方を学びたいと思ったときに、研修や講座に気軽に参加させてもらえています。今年の春には、年度末の時期にもかかわらず、東南アジアでの1週間の海外研修に送り出してくれ、現地の高校や大学の訪問を通じて、留学生の獲得に必要な考え方や筑波大学のブランディングの可能性について学ぶことができました。こういった自己研鑽ができるのも、上司の理解があってこそだと思います。
――日々の業務から大学をよりよくする仕組みをいかに作るか、それはビジョンを持った大学の未来を実現するというこの局の使命とも大いに関わることだと私は思います。
- 筑波大学への入職と3年間を振り返って 西村法子さん①
- コロナ禍での入職と最初の部署での仕事 西村法子さん②
- 広報局での報道担当という仕事 西村法子さん③
- ジェネラリストとしての大学職員の仕事と大学の課題 西村法子さん④
- 若手ならではの気づきと大学の改善 西村法子さん⑤ 《この記事》