Visionインタビュー:共通目標で若手という同僚と伴走する 元村彰雄さん⑤

自律的・主体的にチームワークで業務が進んでいくという教育機構支援課。何がそれを可能としているのでしょうか。先のインタビューでも出てきた「共通目標」とその共有が大きなカギになっているようですが、その先も含めて、教育機構支援課長の元村彰雄さんにお話を聞きしました。

――部下と対話しながら業務を進めるというのは、信頼関係があってできることだと思います。そのためには、お互いの仕事を尊重しながら建設的な話ができる部署の風土づくりや、安心して意見を出せるようないわゆる心理的安全性が必要だと想像するのですが、どうやって実現しているのでしょうか?

そうした環境を実現できているかどうか自分ではわからないですが、心理的障壁が生じないように心がけてはいるつもりです。

――例えばどのような心がけをしていますか?

特別なことはありません。例えば、担当者が何か相談したくても「今は忙しそうだから後にしよう」と自分で引いてしまうようにはしたくないですね。後にしようとなるのか今やりましょうとなるのかは、声をかけてもらえばその場で解決することです。話す前から声をかけにくい感じを出していたら、一緒に仕事を進める機会を自分で失っていることになりますよね。実際に声をかけられた時の対応の積み重ねからそのような印象は作られていくのだと思います。

――先のインタビューであったように、課で一丸となって難しい局面を打開するのには、選択肢の幅を広げて精査しながら収斂させていくというプロセスがポイントだったように思います。そこではやはり経験値が重要になるのでしょうか。

そうですね。経験値もチームとして各自の経験値を総合することが大事だと思います。私は課内で年数が一番長いので相応の経験はあるわけですが、課内の職員一人ひとりも年数は違えど私とは違う部署を経験したり勉強したりして異なる経験値をもっているわけですよね。だからこそ相談する中でお互いに気づきがあって議論が深まるのだと思います。あと、失敗の経験にしても成功の経験にしても年数を経ていればそれなりにあるので、もし部下が気づきにくい落とし穴があれば上司はそれに気づく必要があります。ただ、これらを上手くやるための普遍的な法則があるわけではないので、なかなか言語化しにくいように思われます。

――その言語化しにくいところをどう言語化するか、言語化していかに業務をスムーズにするかがきっと大事ですね。それについて暗黙知を言語化して洗い出していくと言えば、我々が筑波大学の人文学類で学んだ何かがつながってくるかもしれません。教育機構支援課には人文系の学問を学んだ方が複数いらっしゃいますが、よい意味で抽象度の高い学問に取り組んだ経験が、こうした業務のバックグラウンドにも活きているような気がします。

時々思うのですけど、「職員の育成」が昨今よく言われるじゃないですか。大学でも人材育成基本方針を掲げていますが、「育成」ということばが私にはどうもしっくりこないところがあります。「こういうことができる人を育てよう」と言うよりは、その人が仕事や職場の人との関わりを通して「成長」していくのをどうサポートできるかが大事だと感じています。なので、この課に配属された人がどういう職員になっていくのかを何か共有したいと思ったときに、全学の人材育成基本方針に即して課の人材育成目標を立てればよいかというと、そうではなく、その人のキャリアの中で、教育機構支援課で仕事をしたことがどう位置づけられるのか、どう活きるのかを少しでも共有できるようにしたいと考えました。それで、今年の4月の初めに行った課のミーティングで、「教育機構支援課におけるキャリア形成の目標」について話をしました。

――(「教育機構支援課におけるキャリア形成の目標」を見せてもらいながら)「目標とする職員像」があって「習得・向上を目指す知識・能力・技能」が挙げられている…これって、教学マネジメント関係でおなじみの、ディプロマポリシーとかカリキュラムポリシーみたいなものですよね。また、見方によってはカリキュラムマップの職員版にもなっている(笑)。

そんな感じに書いてしまうのは、一種の職業病みたいなものかもしれません(笑)。要は、多様な業務がある中で教育機構支援課の職員像として共通に描けるものは何かと考えたときに、制度や政策動向はきちんと理解しないといけないし、学修者本位は根底になければならないし、教職協働により関係組織と連携しながら主体的に仕事ができることが大事だという趣旨です。

――確かにそうですね。

教育機構支援課では、まず基盤的知識として、関係法令や学内規則を体系的に理解しなければなりません。それらが業務を進める上での根拠や判断のよりどころになるからです。しかし、法令や規則は字面だけ追っていても理解できません。なぜその法令や規則ができたのかという背景を押さえるため、高等教育の政策展開の歴史や現在の状況の理解が不可欠です。その上で、筑波大学のアイデンティティをきちんと踏まえておかないと、大学としての方向性が不確かになってしまいます。そこで筑波大学の理念や沿革や特徴について理解を深め、大学の存在意義を考えることが大事になります。これらは学内でどの部署に行っても基盤となるところではないでしょうか。業務遂行力や各種技能については、どこでも通用するものを磨き上げていきましょうということです。一人ひとりのキャリアの中で、教育機構支援課での仕事を通じて培われるものを感じ取ってほしいと思います。

――まさに教育機構支援課の業務と連動していると思います。要求水準が結構高いようにも感じる一方でそれに応えられる職員が集まっている印象もあるのですが、共通の目標を明確に示した上で、達成度をマッピングしながら一緒に目指すというのはよい仕事をする上でとても重要だと思います。

これらの目標は、課にいる間に実現してほしいというより、意識をしてほしいというものです。実現の度合いには濃淡があって、私自身にしてもまだまだです。意識しながら仕事をすれば、自ずと業務の質が高められていくのかなと思います。

――そうすると、この目標を実現できる職員は、実際のところ多いのでしょうか?日常業務を回すだけでもいっぱいになってしまいそうです。

私もそうなのですけど日常業務の中で目の前のことに一生懸命になっていると、こうした目標が頭の中に意識的には出てきにくいところがあります。しかし、何が大事かと後で振り返ればこういうことだったりするので、意識して仕事をしたいよねということを文字化したわけです。

――自分の成長の道筋の見えない仕事に対し、今のいわゆるZ世代は魅力を感じないという話もありますが、このような目標の提示は非常に大事なのでしょうね。それぞれの人にとって自身の成長が見えて実感できるためには、その尺度となる目標が必要なのだと思います。

例えば、文部科学省やマスメディアから来た何かの調査に対応する場面があるとします。その調査がその人のためになるかどうか、スキルになるかどうかは仕事の仕方によって全然違うわけです。聞かれたものを関係部署に照会してまとめて返すだけなら、それだけのスキルしか身につきません。しかし、調査項目のそれぞれが何を問うていて、どのような背景で聞いているのか、どんな答えをしたらどのように見られるのか、筑波大学では今どうなっているのかを、主体的に自分でも考えながら学内照会やとりまとめをするならば自分のためになるんですよね。頭の片隅にでも、このような意識があるかないかが、自分のスキルになるかどうかに関わってくると思っています。

――先ほど、「育成する」という言い方には違和感を感じるとのことでしたが、どのようにすれば人は育つのでしょう?

難しいことが多くあるにしても、建設的に前向きに関わって自分で勉強できることは勉強して業務に当たる姿勢がある職員は、どんどん成長していきます。成長の仕方にも個性がありますので、こうすればこう育つということではなく、伴走するようなイメージだと思います。あと、「上司」「部下」というよりはそれぞれの役割と責任を持った「同僚」という方が私にはしっくりきます。

――そのような成長のスイッチが入るような場面は、何かありそうですか?

教育機構支援課では、教職協働で教員とタッグを組んで仕事を進める中で、加速度的に成長していくことがあるようにも感じますね。

――職員が教員と密に協働することで成長するというだけでなく、同じ筑波大学で大きな目標を共有して取り組むことが、よい仕事をする上できっと重要なのでしょう。筑波大学Vision 2030がそのようなものになればよいなと思いながら、お聞きしてきた次第です。

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